
■コンプライアンス体制と内部通報制度
コンプライアンス教育の対象者は、経営者から中間管理職、一般社員まで組織を構成する人間すべてであり、組織にかかわる人々の倫理上のリスク回避を前提に教育が行われている。しかし、コンプライアンスが危機にある企業では、すでに「モラル(倫理)」と「モラール(士気)」の低下が散見され、社内での予防策も事実上、機能していない場合が多い。法令に抵触する人間の行動を事前に察知できず、「事件化」して初めてわかるということが、珍しくなくなっているのである。
こうしたコンプライアンス体制に対する組織的保証として、「内部通報制度」の導入を検討している企業経営者も多いだろう。またすでに導入している企業も多数存在する。しかし、このような制度は経営者が「告発」制度という認識でいても、従業員にとっては「密告」制度と受け取られ、通報者の権利保護があいまいなことと相まって、「相談窓口」的に形骸化している場合もある。大切なのは、内部通報制度が組織の健全性を高め、企業文化を向上させる前提を担うものであると理解する必要があることである。
一般に、内部通報制度は、以下のような特徴をもつシステムである。
1.監査役あるいは経営者に直轄する形で設置される
2.一般社員が、中間管理職や経営幹部の不正、違法行為を通報できる
3.不祥事の事前予防、不祥事に対する迅速な確認、調査、情報開示を促進する
そして、コンプライアンス教育では、内部通報制度が機能することで次のような効果があることを教えなければならない。
■コンプライアンス教育とコンフィデンス
コンプライアンス教育は、企業が全構成員に対して法令遵守精神を徹底し、日常業務のすみずみまで適法状態にあることを目指している。コンプライアンスは、経営者から末端の従業員までに周知徹底されなければならないのである。しかし、実際の組織運営においては、経営者から中間管理職、一般社員へと方針伝達が繰り返される中で、その意図が変質することは多々ある。たとえ不正な指示や違法な命令でも、それが「命令」であれば、部下は上司の指示を実行しなければならなくなる。このことだけを考慮しても、内部通報制度の機能が必要となる理由になる。
内部通報制度が機能するためには、バックアップ体制と通報者の保護が保証されなければならない。バックアップ体制の確立には、コンプライアンス委員会とは別に「内部通報窓口」「調査担当部」を設け、取締役・コンプライアンス担当役員・コンプライアンス委員会が連携して「内部通報窓口」「調査担当部」とコミュニケーションをとれる体制づくりが不可欠である。また、通報者が差別や中傷を受けないように、匿名・実名通報の選択、調査における匿名・実名の開示の有無、調査結果のフィードバック等の有無を、通報者が選択できるようにしなければならない。ここで注意しなければならないのは、公益通報者保護法よりも内部通報制度を上位におき、外部に「不祥事情報」が漏れることを恐れて「内部通報」を社員に強制してはならないことである。このような強制をすると、かえって不祥事情報が外部に広告されやすくなるものである。
すべてのコンプライアンスは組織内部の信頼関係に基づくものであり、コンプライアンス教育は、同時にコンフィデンス(信頼)教育でなければならない。社員の企業に対する信頼なくして、コンプライアンス教育が社内倫理の向上や健全な社風の醸成に結びつくことはない。経営者は、コンプライアンスとコンフィデンスを一体のものと考えるべきである。