
■e-ラーニングとコンプライアンス教育
社員教育は、一般に役員・幹部社員向け(リスク管理・コンプライアンス経営)、管理職向け(推進リーダー管理養成)、監督職向け(推進リーダー養成)、一般社員向け(業務知識・社員常識)などの集合教育効果を期待して行われる。業績向上のためには、経営幹部や管理・監督職はもちろんのこと、広く一般社員の知的レベルを底上げすることも重要であり、そのための「教育」が鍵となるのである。
しかし、社員の集合教育には時間配分、コスト面、個人の到達度にバラツキや限界があり、社員一人ひとりのレベル(実績・理解度)に見合った教育効果がなかなか実感できない側面がある。その点を補完するかのように、e-ラーニングによる「社員教育」が急速に取り入れられるようになった。e-ラーニングは、CD-ROMやDVDメディアを利用した(CBT:Computer Based Training)による教育段階から、インターネットなどのネットワークを利用する段階(WBT:Web Based Training)に至り、現在では、テキスト更新や受講者の学習状況、到達度などを一元管理できるプラットフォーム型の学習管理システム(LMS:Learning Management System)をサーバに組み込む形で発展を続けている。
このようなe-ラーニングのコンテンツの一つとして、コンプライアンス教育も活用されている。コンプライアンス教育の目的は、受講者の職務遂行を手助けする最低限の法的知識を取得および理解させること、企業の価値観と法律や個人の価値観との「整合」をなし、日常業務の行動指針(価値基準)を社員にもたせることにある。e-ラーニングにおけるコンプライアンス教育内容は、
1.ビジネスリテラシー(インターネットセキュリティ・情報セキュリティ)
2.ビジネスコンプライアンス(消費者対応・企業間取引・企業法務・人事管理)
3.ビジネスマネージメント(労務管理・情報管理・知的物的財産管理)
など多岐に渡っている。受講者は、複数のコンテンツを選択し学習することが可能である。
■e-ラーニングの活用状況
一般に外部集合教育(研修)でひとつの講座にかかる費用は、1人2万~5万円である。その点、e-ラーニングは、1コース1人あたり2,500~5,000円で済む。しかし、教材をより自社特性に近づける場合、開発費が1コースあたり100万~200万円かかってしまう。受講料が1人あたり5,000~15,000円で外部研修より安価だとしても、仮にコンプライアンス導入コースで最低5種類、継続コースでも法令を中心に最低15コースは必要となると、開発費だけで最低100万円×20コース=2,000万円のコストが別途かかる。完全なオリジナル教材を作成するなら、1コースあたり150万~500万円で最低3,000万円の開発コストがかかる。そのため、e-ラーニングが普及しはじめたばかりの頃の用途は、あくまで「入門編」としての基礎知識を得るためのてっとり早い教材としてであり、教材開発も必要最低限にとどめられていた。また、教材への同時アクセスに人数制限を設けていることが多く、思い立ったときに「学習」ができないという不自由さもあった。
『e-ラーニング白書』(2004/2005)経済産業省調査によれば、当時のe-ラーニングの導入率は、社員5,000人以上の大企業で60%あるものの、調査全企業のわずか15%に満たないものであった。この数字は、e-ラーニングの企業への浸透がまだ序盤にあることを示していた。外部研修と比較すると確かに安価ではあるが、すでにe-ラーニングを導入した企業では、初期導入費用が思ったより高い、活用が不十分、費用対効果がみえにくい、受講者のサポート体制が不十分、既成のコンテンツの魅力が薄い、などの調査結果が出ていたのである。
しかし『e-ラーニング白書』(2007/2008)における最新の調査では、5,000人以上の大企業での導入率は82.8%、調査全企業の55%ほどが導入しているという結果が出た。さらに、「日常業務の支援システムとして活用(22.5%)」に加えて「社内遠隔会議活用(14.6%)」、「社内コミュニケーション活用(9%)」という結果から、問題の一つであった活用が不十分という点も、e-ラーニングの普及とともに解消されつつある様子がみえる。