
■電子商取引の成立に関する問題点
Web閲覧者が企業サイトのWebにアクセスし、商品を購入すると同時に、閲覧者は消費者になる。電子商取引は、いわゆる対面販売や電話による申し込みと比べ、購入手続きが煩わしくなく、短時間で済むため、通信販売の一形態として増加の一途をたどっている。しかしよく考えてみると、Web上の商取引は、その売買契約成立の法的効力がいつ発生するのかがとても曖昧である。通常、Web上のショッピングモールでは、商品を選択し一通りの購入手続きを済ませるのとほぼ同時に、サイトから「購入」のお礼、確認のメールが届く。この場合は対面販売と異なり、その場で契約が成立するわけではなく、どの時点で売買契約が成立し、売り手と買い手の意思の合致がみられるのかが、経験的に理解できないのである。
民法では、遠隔地消費者の意思の到達によって売買の効力が生ずる「到達主義」(民法97条1項)を採用している。しかし他方では、承諾の意思表示の発信によって契約が成立する「発信主義」(民法526条1項)を採っている。送受信が瞬時におこなわれるWeb販売では、一般に受信者の契約しているプロバイダーのサーバー内のメールボックスへ電子データが到達した時点で、売買契約が成立するとみてよい。UNCITRAL電子商取引モデル法15条でも、ほぼ同様の解釈がされている。
このような前提で起こりうるトラブルは、データ入力ミス(発注ミス)による売り手と買い手の「意思の不一致」であり、通信トラブル時の「未発注」による買い手と売り手の「意思の不一致」である。これらは、申し込み商品数のミス、商品送付トラブル、送金と入金をめぐるトラブルに発展する。電子商取引は特定商取引法(旧・訪問販売法)に規定されているが、通信販売にはクーリングオフの定めがない。この点に関して、瞬時に売買契約が履行されるダウンロードによるデジタルコンテンツの取得などは別にして、発注数のミスによる売買契約の撤回、電子商取引についてクーリングオフ制度を導入すべきかどうか検討の余地があろう。しかしこの場合、電子商取引の特殊性から考慮されるべきというよりも、対面販売がなされない消費者保護の観点から考えることが大切に思われる。
■電子商取引のリスク管理
Web上の取引トラブルが発生したため、その混乱を避けるために、2001年、電子消費者契約法が成立した。この法では、電子商取引上の契約の成立を、承諾のメールが消費者に到達した時点(到達主義)と定めている。このことから、Web上のショッピングモールによる商品申し込みは、サイトが申し込みに即時に反応する「自動返信プログラム」を採用している場合が多いため、申し込み内容が間違っていたとしても、サイトが承諾メールを自動返信することで即時に契約が成立し、取り消しはできない。消費者は、このような電子商取引はリスクが回避されないシステムであることを十分に理解し、責任をもって、正確に入力作業をおこなうことが求められるのである。また、通信トラブル(申し込み時のプログラムのフリーズなど)による二重発注や、第三者による悪意ある申し込みがされないようID・パスワード管理にも注意する必要がある。
一般に電子商取引の契約の成立問題は、この電子消費者契約法によって解決したようにみえる。しかし、「承諾期間」の定めがない場合、「承諾通知」が消費者に届かず、商品も届かない場合、問題が発生するのである。消費者は商品購入を「取り消し」たくても、承諾通知を受けるまでは申し込みを撤回できない(民法524条)のである。
この問題を解決するためには、サイトは消費者に返信されなかった「承諾未通知」データを蓄積し、消費者に改めて再通知するシステムをとることが求められる。「承諾通知」が返信されないことを一定の時間内に消費者に告知するシステムができれば、取り決めた時間内であれば、契約は成立しなかったと判断することができ、結果として消費者は「取り消し」または「再購入」の判断が可能になるのである。